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底辺ネットライターが思うこと

思うことをひたすら書くだけ

結婚が人生の墓場だと言うのならば

日記

日曜日、雨が降り出した夜。私は一人きりの夜を過ごす準備をしていた。

孤独。雨の音がざあざあと聞こえてくる。窓から外を見なくても、その太く打ちつける音で強い雨が降っていることがわかった。

結婚した当初は「数日間も離れるなんて考えられない!」と思っていたものだけれど、数年も経つと「たまには一人で眠るダブルベッドもいいものね」と思えるようになる。スペースをふんだんに活用するために、ベッドに対角線を引くように斜めになって寝転がっていた。

夫は月曜日に帰ってくる予定。私は最後の一人の夜を満喫してやろうと電子書籍をまとめ買いした。今まで読もうと思って読んでいなかった漫画、あれもこれも読んでやろう。中学生の時に戻ったような気分でわくわくした。

結婚してからは夫は技術書ばかり読むようになり、私はたまにエッセイのような本を読む程度になった。そもそも家がそんなに広くないので、一人部屋という物をお互いに持っていない。一人の時間という物があまりない。家にいる間はずっと一緒に時間を過ごしている。一緒にhuluなどで映画やドラマを見る時間が増えた。本を読む時間は寝る前のほんの少し。

夫から特に連絡はなかった。鳴らないスマホを眺めて、結婚式を楽しんでいるんだろうな、と思った。寂しくなかったと言えば嘘になる。だから電子書籍を衝動大人買いしてしまったのだし。

そんな寂しい気持ちの仕返しに「検査結果は帰って来てから話すね」と夫にメールしていた。それに対しての返事はなく、ああ私に構う暇もないほど結婚式楽しんでるんだなぁと思った。

時間は夜の11時過ぎ。二次会まで参加してホテルに泊まると言っていたし、今頃三次会でも楽しんでいるかもしれない。楽しげにはしゃぐ夫の姿を頭の中で思い描いた。

寂しい気持ちが少しだけ悔しくなって、私も楽しんでやる、と、大きなボトルのお茶を用意し、電子書籍を開いた。

この漫画はこういう物語だったのか、思っていたのと違ったけどそれなりに面白い、そうか、よし二巻を読もうとダウンロードボタンを押した時だった。

がちゃん、と、ドアの方から大きな音がした。

風で何かが飛んで来たんだろうか、と考えていると、がちゃがちゃ、という音が聞こえた。

「これは明らかに人がいる」

そう確信してどうしようかと固まっていると、鍵を開ける音がした。

日曜日の夜。日付が変わる少し前。

私の目の前に現れたのは、礼服のまま雨でずぶ濡れになった夫だった。

驚いて言葉が出なかった。ベッドに寝転がってiPadを構えたまま呆然と、ずぶ濡れの夫を見上げる。

月曜日に帰ってくる予定だった夫。夫の実家は電車も通っていない田舎だ。家まで帰ってくるにはバスで3、4時間は揺られる必要がある。そのバスもかなり早い時間でなくなる。二次会まで出るはずの夫が帰って来れるはずがない。

ぐるぐると考え込んでやっと出た言葉は

「何でいるの?」

だった。

この時、私の目には夫がものすごくかっこよく映っていた。

前にも書いた通り、そんなに褒められる外見ではない夫。「進撃の巨人」が実写映画化で巨人のエキストラを募集していた時、複数の友人から「旦那さんは応募しないの?特殊メイクなしでいけると思うんだけど」と聞かれたぐらい、巨人に似ている。本人にそれを伝えたら、その後しばらく奇行種ごっこが夫婦の間で流行った。夫が走って追いかけてくるだけの遊び。これを夜にやると割と本当に怖かった。

雨と雨に濡れた礼服と真夜中と突然の力はすごい。そんな夫がものすごくかっこよく見えた。それと、ものすごく嬉しかった。

夫は濡れた礼服を脱ぎ捨てて、ベッドに飛び込んできた。

「検査結果は!?」

涙目で私の顔を覗き込んでそう聞く。

「二次会まで出るんじゃなかった?ホテル取ったって言ってなかった?」

問い質す私に問い返す夫。

「それより検査結果は!?」

何もなかったよと伝えると、安心したようにベッドに寝転がった。

「で、結婚式は?ホテルは?」

しつこく聞く私に、夫はようやく答えてくれた。

「式場が町に近かったから少しだけ遅くまでバスが出てて、二次会終わってから飛び乗った。ホテルはキャンセルした」

そういうことか、とようやく状況を理解した。

「バスに乗るためにお酒をあんまり飲まずに帰って来たから、今から飲みに行こう!祝杯だ!」

と夫が騒ぐ。

外は大雨だし、ずぶ濡れだし、突然過ぎてお酒を飲む気分じゃないし、とりあえず家でご飯食べようと言ったら

「じゃあペペロンチーノだ!ペペロンチーノしか食べたくない!」

と言ってパスタを作ってくれた。できあがったのはツナの入った唐辛子抜きの、ペペロンチーノとは程遠いパスタだった。

数日間、意外と一人で平気なもんだと思いながら、母の作ったカレーやら、適当に作った丼やら、インスタント食品やらで一人の食事を送ってきた。それなりにおいしいと感じながら食べていたはずなのに、そのペペロンチーノじゃないペペロンチーノはとてもおいしくて、「久しぶりに食事をした」と私に思わせた。

真夜中、脂っこいパスタ、隣にいるいないはずの夫。気持ちが高揚して、顔が熱くなった。

「私は一人で平気だから」と強がって夫を追い出して、孤独な生活を満喫しているつもりで、全くできていなかった。久しぶりに心が充足したようだった。

結婚とは人生の墓場であるという言葉がある。もしそうであるならば、私はこの場所に喜んで骨を埋めよう。改めてそう感じた夜だった。